Last Updated on 2026年1月7日 by けん実おじさん
国家ぐるみの「ネズミ講」
総務のけん実おじさんです。
今回は、有名な「南海泡沫事件」と同時期にフランスで起きた、さらに悪質で大規模な事件を監査します。
その名は「ミシシッピ計画」。
主犯はスコットランド人のジョン・ロー。
彼は数学の天才であり、脱獄した殺人犯であり、そして一国の経済を支配した「魔術師」でした。
南海泡沫事件が「民間企業の株価操作」だったのに対し、この事件は「国家の借金」と「通貨発行権」を使った、政府主導の巨大詐欺です。
「国の借金をチャラにするために、国民に株を買わせて、その購入資金を国が刷って貸し付ける」
この狂った錬金術は、現代のアベノミクスやMMT(現代貨幣理論)の先駆けとも言える危険な実験でした。
なぜフランス全土がこの詐欺に踊り、そして破滅したのか?
現代の我々が「政府の肝煎りプロジェクト」を安易に信じてはいけない理由を、歴史から紐解きます。
背景:破産していた「太陽王」の国
1715年、太陽王ルイ14世が死去した時、フランスは事実上の「倒産状態」でした。
ヴェルサイユ宮殿の浪費と戦争により、国の借金は歳入の約20年分(30億リーヴル)。
現代の日本も真っ青の債務超過です。
ここで颯爽と現れたのが、ジョン・ローです。
彼は摂政オルレアン公にこう囁きました。
「金(ゴールド)がないなら、紙(紙幣)を刷ればいいのです。私が国の借金を消してみせましょう」
こうして、人類史上初の大規模な「管理通貨制度」の実験、もとい「地獄への行進」が始まりました。
詐欺の手口:「債務の株式化」という錬金術
ローが考案したスキームは、天才的かつ悪魔的でした。
彼は、北米ルイジアナ(ミシシッピ川流域)の貿易独占権を持つ「ミシシッピ会社(後のインド会社)」を設立し、その株を国民に売り出しました。
▼【監査ポイント】ゴミを黄金に変えるトリック
ローは、株の購入代金として「現金」だけでなく、「国債(国の借金証書)」での支払いを認めました。
- 当時、フランス国債は信用がなく、市場で紙くず同然(額面の20〜30%)で叩き売られていた。
- ローは「国債を額面通りの価値で、株と交換してあげるよ」と発表した。
- 国民は「ゴミ同然の国債が、将来有望な会社の株に化ける!」と歓喜し、国債をかき集めて株を買った。
- 会社(ロー)は、集めた国債を国に返還し、国の借金を帳消しにした。
これにより、政府のバランスシートは劇的に改善しました。
しかし、それは「国の借金」が「国民の熱狂(株価)」に付け替えられただけに過ぎません。
株価が上がり続けなければ、このシステムは崩壊します。
熱狂:パリ中がカジノになった日
株価を維持するため、ローは徹底的なプロパガンダを行いました。
実際のルイジアナは泥だらけの湿地帯でしたが、彼はパンフレットでこう宣伝しました。
「そこにはエメラルドの岩山があり、原住民が金塊を持って交換に来る」
カンカンポワ通りの狂乱
パリの証券取引所があった「カンカンポワ通り」は、株を求める人々で溢れかえりました。
- 貴族も召使いも、聖職者も娼婦も、全員が株の話しかしない。
- 「ミリオネア(百万長者)」という言葉は、この時に生まれました。
- ある「せむし男(猫背の男)」は、自分の背中を「書き物机」として貸し出し、契約書へのサイン台にするだけで巨万の富を築きました。
株価は1年で20倍(500リーヴル→10,000リーヴル)に暴騰。
人々は働かなくなり、労働賃金ではなく「キャピタルゲイン」だけで生活するようになりました。
フランス全土が、巨大なカジノと化したのです。
崩壊:国家権力による「出口封鎖」
しかし、賢い投資家は気づき始めます。
「湿地帯からエメラルドなんて出てこない」と。
1720年初頭、コンティ公などの大口投資家が株を売り抜け、紙幣を「金貨(ゴールド)」に換え始めました。
取り付け騒ぎの始まりです。
ここでローが見せた対応こそ、「国家詐欺」の真骨頂です。
彼は財務総監という権力を使い、信じがたい「出口封鎖」を行いました。
▼【監査報告】独裁的な規制の数々
- 正貨保有の禁止: 市民が一定額以上の金銀貨を持つことを禁止。家宅捜索を行い、没収した。
- 宝石の購入禁止: 資産をダイヤモンドなどに逃がすことも禁じた。
- 国境封鎖: 資産を持って海外へ逃げることを防いだ。
「株と紙幣以外は持つな。売ることも許さない」
これは金融政策ではなく、国家による強盗です。
しかし、どれだけ脅しても「信用」は戻りません。
1720年5月、ローが「株と紙幣の価値を切り下げる」と発表した瞬間、パニックが起こり、システムは崩壊しました。
南海泡沫事件との決定的違い
よく比較されるイギリスの「南海泡沫事件」との違いを整理します。
総務的な観点で見れば、ミシシッピ計画の方が圧倒的に「タチが悪い」です。
| 比較項目 | ミシシッピ計画(仏) | 南海泡沫事件(英) |
| 主犯 | 国家(財務総監ロー&摂政) | 民間企業 + 汚職政治家 |
| 資金源 | 中央銀行が紙幣を刷って供給 | 投資家の自己資金・借入 |
| 崩壊の影響 | 株価暴落 + 通貨価値の消滅 | 株価暴落のみ(ポンドは無事) |
| 結末 | 国民全員が資産を失う | 投資家だけが破産 |
イギリスでは「株の暴落」で済みましたが、フランスでは「通貨(リーヴル)」そのものが紙くずになりました。
このトラウマにより、フランス人はその後100年近く、銀行と紙幣を信用しなくなりました。
総括:現代への教訓
ジョン・ローは1729年、ヴェネツィアで貧困のうちに死にました。
しかし、彼の亡霊は現代にも生きています。
- 異次元の金融緩和(紙幣を刷って景気を浮揚させる)
- 政府主導の株価維持(公的資金による買い支え)
- 官製プロジェクトの過剰宣伝(実体のない成長戦略)
これらはすべて、ローがやったことと同じです。
ミシシッピ計画の教訓は、
「国家が『リスクはない』と言って勧めてくるものこそ、最大のリスクである」
ということです。
【総務部からの提言】
- 「国策に売りなし」は嘘である。 国策が失敗した時、国はルールを変えて(預金封鎖や増税)責任を国民に押し付ける。
- 熱狂には近づくな。 「靴磨きの少年」ならぬ「せむし男」が儲け話をし始めたら、それは終わりの合図である。
- 出口戦略を持て。 コンティ公のように、皆が踊っている最中に、静かに資産を「金(ゴールド)」や「他国通貨」に移せる者だけが生き残る。
「政府がなんとかしてくれる」
その考えこそが、あなたの資産を破滅させる一番の要因かもしれません。


コメント