Last Updated on 2026年1月7日 by けん実おじさん
これは「事故」ではなく「事件」である
総務のけん実おじさんです。
今回の監査対象は、私たちの記憶に新しい、そして世界経済を焦土に変えた
「リーマン・ショック(世界金融危機)」
です。
多くの人はこう思っています。
「アメリカの住宅バブルが弾けて、運悪く銀行が潰れたんでしょ?」
断言します。
それは間違いです。
あれは自然災害でも不運な事故でもありません。
「金融大量破壊兵器(Financial Weapons of Mass Destruction)」によって、意図的に引き起こされた人災です。
- ゴミ同然のローンを「プラチナチケット」に偽装した銀行家。
- 手数料欲しさに嘘の格付けを与えた格付け機関。
- 自分たちは裏で「空売り」を仕掛けながら、客にはゴミを売りつけた証券会社。
ウォーレン・バフェットが警告した通り、金融工学は世界を破滅させる兵器となりました。
「プロも間違える」のではありません。
「プロこそが、最も巧妙に私たちを騙す」のです。
この金融史上最大の詐術の全貌を、総務部の執念で監査します。
兵器の原材料:「サブプライムローン」という猛毒
すべては、アメリカの住宅ローン市場から始まりました。
2000年代、アメリカは空前の住宅ブーム。
銀行は「誰にでも金を貸す」状態でした。
▼【監査ポイント】NINJAローンの狂気
当時の融資基準は、常軌を逸していました。
その象徴が「NINJA(ニンジャ)ローン」です。
- No Income(収入なし)
- No Job(仕事なし)
- Assets(資産なし)
無職で資産もない人間に、数千万円の家を買わせる。
普通なら「返せるわけがない」と分かります。
しかし、銀行は貸しました。
なぜか?
「貸した瞬間に、そのローン(債権)を他人に転売してしまうから」です。
これを「組成・販売(Originate-to-Distribute)モデル」と呼びます。
銀行は貸し倒れリスクを負いません。
トランプのババ抜きのように、「焦げ付く爆弾」を次の誰かにパスすれば、手数料だけが儲かる仕組みになっていたのです。
錬金術の工場:「CDO」と「証券化」の魔術
銀行が集めた「猛毒のサブプライムローン」は、ウォール街の投資銀行(ゴールドマン・サックスやリーマン・ブラザーズ)に持ち込まれました。
ここで、ゴミを黄金に変える錬金術が行われます。
それが「証券化」です。
トランチング:腐った肉を混ぜてハンバーグにする
彼らは数千人分の住宅ローンを束ねて、「MBS(住宅ローン担保証券)」という金融商品を作りました。
さらに、売れ残ったリスクの高い部分(メザニン債)をかき集め、再び束ねて「CDO(債務担保証券)」という怪物を作り出しました。
仕組みはこうです。
- 数千本の「腐りかけのローン」をバケツに入れる。
- それを「優先的に返済される階層(シニア)」と「真っ先に損をする階層(エクイティ)」に切り分ける。
- すると不思議なことに、「腐った肉(サブプライム)」の寄せ集めなのに、シニア階層は「安全な肉(AAA格付け)」として認定される。
これが金融工学の魔術です。
彼らは「全米の貧乏人が、同時に住宅ローンを滞納することはない」という(誤った)確率論を盾に、産業廃棄物のような債券に「米国債と同じ安全性」というラベルを貼ったのです。
最凶の兵器:合成CDO
さらに悪質なのが「合成CDO」です。
これは実際の住宅ローンすら入っていません。
「他人の住宅ローンが焦げ付くかどうか」に賭ける、いわば「競馬の馬券」のようなものです。
- 実物のローンには数に限りがある。
- しかし、「賭け(合成CDO)」なら無限に作れる。
これにより、本来の住宅市場の規模を遥かに超えるレバレッジがかかり、爆発時の威力が数千倍に増幅されました。
共犯者たち:魂を売った「格付け機関」
なぜ、世界中の年金基金や日本の銀行は、こんなゴミを買ってしまったのか?
それは、S&Pやムーディーズといった「格付け機関」が、最高ランクの「AAA(トリプルA)」を与えていたからです。
▼【監査証拠】発行体課金モデルの腐敗
格付け機関は、投資家からではなく、「商品を売りたい銀行」から手数料をもらって格付けをしていました。
もしムーディーズが「これは危険だ」と言えば、銀行は「じゃあS&Pに頼むわ」と言って去っていきます。
シェアを失いたくない格付け機関は、銀行の言いなりになってAAAを乱発しました。
S&Pの内部メールには、分析官のこんな本音が残されています。
「この取引はバカげている。牛(cows)によって組成されたとしても、我々はそれに格付けするだろう」
彼らは、中身が牛のフンであっても、手数料さえ貰えれば「プラチナ」の刻印を押したのです。
この「安全神話」こそが、世界を騙した最大のトリックでした。
背信の現場:ゴールドマン・サックスとマグネター
この宴の裏で、自分だけは助かろう、いや、むしろ「破滅に賭けて儲けよう」とした連中がいました。
マグネター・トレード
ヘッジファンド「マグネター」は、わざと「最も腐ったローン」を混ぜ込んだCDOを銀行に作らせました。
そして、そのCDOが破綻することに賭ける「空売り(CDS)」を大量に仕込んだのです。
彼らは「沈むように設計された船」を作り、それに乗客を乗せ、自分は沈没保険金を受け取ったのです。
ゴールドマン・サックス「ABACUS事件」
名門ゴールドマン・サックスも同様でした。
ヘッジファンド(ポールソン&カンパニー)が選んだ「絶対に破綻するクズ資産」を詰め込んだCDO「ABACUS」を組成。
それを顧客(ドイツの銀行など)には「第三者が選んだ安全な商品」と偽って売りつけました。
結果、顧客は10億ドルの損を出し、ポールソンとゴールドマンは巨額の利益を得ました。
「客にゴミを売りつけ、裏でそのゴミが燃えることに賭ける」 これがウォール街のトップが行っていたビジネスの正体です。
崩壊:そして誰もいなくなった
2007年、住宅バブルが弾けました。
「全米同時にデフォルトは起きない」という前提が崩れ、数式モデル(ガウス・コピュラ)は紙屑になりました。
- ベアー・スターンズ: 最初の犠牲者。JPモルガンに救済される。
- リーマン・ブラザーズ: レバレッジ30倍で不動産に突っ込んでいたため、わずかな下落で即死。2008年9月15日、史上最大の倒産。
- AIG(保険大手): CDOに対して「絶対に損しない保険」を売りまくっていたが、支払いが殺到して破綻。政府に18兆円で救済される。
AAAだと信じていた債券は、一夜にして無価値になりました。
日本の地方銀行や生保(大和生命など)も、この毒入り餃子を食べており、甚大な被害を受けました。
専門家の敗北:「25シグマ」という言い訳
当時のFRB議長バーナンキは、危機の直前まで「サブプライム問題は封じ込められている」と誤診しました。
ゴールドマンのCFOは、自社の損失について「25標準偏差(25シグマ)の事象が起きた」と言い訳しました。
25シグマとは、「宇宙が誕生してから現在までの間に一度も起こらない確率」です。
彼らは認めようとしませんでした。
「自分たちのモデルが間違っていた」とは。
代わりに「宇宙レベルの不運が起きただけだ」と言い逃れをしたのです。
これが「金融のプロ」の正体です。
彼らは高度な数学を使いますが、その前提条件(人間は合理的である、市場は正しい)が根本から間違っていたのです。
総括:次の危機に備えよ
この監査から得られる教訓は残酷です。
- 格付け(AAA)を信じるな。 それは金で買われた意見かもしれない。
- プロは顧客を裏切る。 銀行が勧めてくる商品は、銀行が「処分したいゴミ」かもしれない。
- リスクは隠されている。 複雑な仕組み(証券化)は、リスクを消すためではなく、見えなくするためにある。
リーマン・ショックで逮捕されたウォール街のトップは、事実上ゼロです。
彼らは巨額の和解金(会社の金)を払って逃げ切り、今もゴルフを楽しんでいます。
「歴史は韻を踏む」
サブプライムローンという名前は消えましたが、形を変えた「ハイリスク商品(CLOなど)」や「AIによる自動取引」が、次のバブルを膨らませています。
自分の資産を守れるのは、格付け機関でも銀行員でもありません。
「その商品の裏側には何があるか?」を疑い続ける、あなた自身の監査能力だけなのです。


コメント