Last Updated on 2026年1月7日 by けん実おじさん
会計には「2つの顔」がある
総務のけん実おじさんです。
今回は、私が経済学部の学生時代に学んだ「教科書上の会計」と、中小企業の現場で15年間叩き込まれた「実戦の会計」との間に横たわる、巨大な断絶について監査報告します。
よく「大企業の経理担当と中小企業の社長で、話が噛み合わない」という現象が起きます。
同じ簿記のルールを使っているはずなのに、なぜでしょうか?
結論から申し上げます。
彼らは「全く別のゲーム」をしているからです。
- 大企業の会計(財務会計): 「いかに儲かっているか」を証明するゲーム
- 中小企業の会計(税務会計): 「いかに所得を減らすか」を競うゲーム
この「前提の違い」を理解せずに決算書を読むことは、サッカーのルールで野球の試合を解説するようなものです。
今回は、大学では教えてくれない、この泥臭い現場の真実を徹底的に解剖します。
大企業の論理:「株主」のために成長曲線を魅せる
まず、みなさんがイメージする「会計」の正体、つまり上場企業が行っている会計について整理します。
▼【監査分析】ミッションは「投資家へのアピール」
上場企業のオーナーは「株主」です。
顔も知らない数万人の株主が、その会社に何を求めているか?
答えはシンプル。
「この会社は将来、どれだけ儲かるのか?」です。
そのため、大企業の会計(財務会計)には以下の特徴があります。
- 経済的実態の追求: 「ルール上はこうだけど、実態に合わせて計算しよう」という姿勢です。 例えば、工場の機械が10年使えるなら、きっちり10年に分けて費用化し、毎年の「真の実力値(利益)」を正確に計算しようとします。
- 微分的な視点: 彼らが見たいのは「成長の傾き」です。 四半期(3ヶ月)ごとに、「前の期間よりどれだけ成長したか?」という変化率を厳密に測定します。
だからこそ、大企業の経理は厳格なルール(GAAPやIFRS)に従い、第三者が検証可能な「美しい数字」を作ることに命を懸けるのです。
中小企業の論理:「税務署」のために所得を消す
一方、私が主戦場としている中小企業(非上場企業)の世界は、全く景色が異なります。
▼【監査分析】ミッションは「税金対策」
中小企業のオーナーは「社長自身」です。
誰かに「儲かってるよ!」とアピールする必要はありません。
むしろ、儲かっているとバレると困る相手がいます。
そう、「税務署」です。
中小企業の会計(税務会計)の行動原理はこうなります。
- 課税所得の圧縮: 「実態がどうあれ、法律が許す範囲で最大限に費用を計上しろ」という姿勢です。 利益が出すぎると税金で半分近く持っていかれます。社長にとって、会計とは「利益を適度に隠す技術」と同義語です。
- 法的形式主義: 「この車は実質5年使える」とかどうでもいいのです。「税法で4年で償却していい」と書いてあれば、4年で償却して一気に費用を作ります。
結果として、中小企業の決算書は、企業の「真の実力」よりも低く表示される傾向があります。
「儲かっていないフリをする」のが、優秀な中小企業の決算書なのです。
決定的な違い:「減価償却」のトリック
この違いが最も顕著に現れるのが、「減価償却(げんかしょうきゃく)」の扱いです。
高級車(1,000万円)を買った場合
車や機械など、長期間使うものは、購入した年に全額を経費にせず、数年間に分けて経費にします。
これを減価償却と言います。
【大企業のアプローチ】
- 思考: 「この車は実質6年は使うだろう。丁寧に6分割して費用にしよう」
- 結果: 毎年の利益が正確に計算され、株主に対して誠実な報告になります。
【中小企業のアプローチ】
- 思考: 「法律(法定耐用年数)では最短4年で償却できる? よし、4年で落とせ! なんなら中古車を買って定率法で1年で落とせ!」
- 結果: 初年度に巨額の経費が計上され、利益が激減します。これで税金が安くなります。
【監査結果】 同じ車を買っても、大企業の決算書では「利益が出ている」のに、中小企業の決算書では「赤字」になることがあります。 しかし、キャッシュ(現金)の動きは同じです。 つまり、「中小企業の決算書は、実態よりも貧乏に見えるように化粧されている」のです。
「償却していない会社」は危険信号
ここで、現場を知る者だけが知る「逆説的な危険信号」をお伝えします。
通常、中小企業は「減価償却費を最大化して、利益を減らしたい」と考えます。
しかし、たまに「減価償却をあえて行わず、利益を出そうとする中小企業」が存在します。
▼【監査警告】銀行対策の粉飾
なぜ、わざわざ税金を払ってまで利益を出したいのか?
理由は一つ。
「銀行からお金を借りたいから」です。
業績がボロボロで、普通に決算を組むと大赤字になってしまう。
赤字だと銀行が融資してくれない。
そこで、本来計上すべき「減価償却費」を計上せず(飛ばして)、無理やり黒字に見せかけるのです。
「中小企業なのに、利益を出したがっている」 この不自然な動きを見つけたら、その会社は資金繰りが火の車である可能性が極めて高いです。
これは、上場企業の粉飾(利益水増し)とは文脈が違いますが、根っこにある「実態を隠す」という点では同じです。
総括:数字の裏にある「意図」を読め
「会計」という言葉に騙されてはいけません。
その数字を作ったのが「雇われ社長(大企業)」なのか、「オーナー社長(中小企業)」なのかで、数字の意味は180度変わります。
【総務部からの提言】
- 比較不能であることを知る: 上場企業の決算書と、取引先の中小企業の決算書を横並びで比較してはいけません。定規が違います。
- 中小企業の「赤字」は割り引いて見る: 「赤字=倒産寸前」とは限りません。「節税しすぎた結果の赤字(キャッシュはある)」かもしれません。減価償却や役員報酬の額を確認してください。
- 大企業の「黒字」は疑って見る: 「黒字=健全」とは限りません。「無理な売上計上や費用の先送りで作った黒字」かもしれません。キャッシュフローを確認してください。
大学の講義や資格の勉強では「大企業の会計」しか習いません。
しかし、日本の企業の99.7%は中小企業です。
世の中の実態を掴むためには、教科書を捨て、この「泥臭い現場の論理」を理解する必要があるのです。


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