Last Updated on 2026年1月7日 by けん実おじさん
AI投資の「原罪」はここにあり
総務のけん実おじさんです。
今回の監査対象は、歴史の教科書にも載っている大暴落、
1987年の「ブラックマンデー」
です。
多くの人は「昔の大暴落でしょ?」と軽く考えていますが、総務としての監査視点では、これは現代にこそ通じる最重要ケーススタディです。
なぜなら、この暴落を引き起こしたのは、戦争でも不況でもなく、当時の金融工学の粋を集めた「最強の投資プログラム」だったからです。
- 「プログラムに任せておけば、リスクを自動で回避してくれる」
- 「感情のないコンピュータこそが、最適解を導き出す」
40年前のこの過信が、たった数時間で世界から約200兆円を蒸発させました。
そして今、私たちは「ロボアドバイザー」や「AIトレード」という、さらに高度化されたブラックボックスに資産を委ねようとしています。
歴史は繰り返さないが、韻を踏む。
あなたのスマホに入っているその「おまかせ投資アプリ」が、暴落時に牙を剥く可能性について、冷徹に監査します。
1987年10月19日:市場が「溶けた」日
まずは、その被害規模を数字で確認します。
1929年の世界恐慌や、2008年のリーマンショックですら、「たった1日」でこれほど下げたことはありません。
▼【監査資料1】歴史的暴落の比較(単一下落率)
| 日付 | 出来事 | ダウ平均下落率 | 備考 |
| 1987年10月19日 | ブラックマンデー | -22.61% | 史上最大 |
| 1929年10月28日 | 世界恐慌(引き金) | -12.82% | 2日連続暴落の初日 |
| 2020年3月16日 | コロナショック | -12.93% | サーキットブレイカー発動 |
マイナス22.6%。
これを現在のダウ平均(約40,000ドルと仮定)に当てはめると、たった1日で9,000ドル(約130万円)近く暴落する計算になります。
前週の金曜日まで、市場は「過去最高値」を更新し続けるイケイケの強気相場でした。
それが月曜日の朝、コーヒーを飲んでいる間に、資産の4分の1が消滅したのです。
電話回線はパンクし、自分がいくら損をしているのかさえ分からない。
NY証券取引所のフロアは、怒号と悲鳴で埋め尽くされました。
真犯人:「絶対に損をさせない」はずのプログラム
なぜ、これほどのパニックが起きたのか?
当時の「ブレイディ報告書(事故調査委員会)」が断定した主犯、それが「ポートフォリオ・インシュアランス」です。
これは、当時の機関投資家(年金基金など)がこぞって採用していた、最新鋭の「自動損切りプログラム」でした。
【システムのうたい文句】
「株価が下がったら、コンピュータが自動的に先物を売ってヘッジ(保険)をかけます。これにより、株価上昇の利益は取りつつ、暴落時の損失は一定以下に抑えられます」
まるで魔法です。
現代のロボアドバイザーの宣伝文句にそっくりですね?
しかし、このプログラムには致命的なバグ(構造的欠陥)がありました。
▼【欠陥の構造】死のフィードバック・ループ
- 下落開始: 何らかのニュースで株価が少し下がる。
- プログラム発動: 「下がったから売れ!」と、すべての機関投資家のコンピュータが一斉に先物売り注文を出す。
- 先物暴落: 売りが殺到し、先物価格が現物より異常に安くなる。
- 裁定取引(アービトラージ): 「先物が安いから、現物を売って先物を買おう」という別のプログラムが作動し、現物株が売られる。
- さらなる下落: 現物株が下がったので、最初のプログラムが「もっと下がった!もっと売れ!」と判断する。
- 無限ループ: 2〜5が光の速さで繰り返され、市場の底が抜ける。
「みんなが同じ出口に殺到した映画館」のようなものです。
プログラムは「いつでも売れる(流動性がある)」という前提で動いていましたが、全員が同時に売ろうとしたため、買い手がいなくなり、価格がつかないまま奈落の底へ落ちていきました。
現代への警告:ロボアドは暴落時にあなたを守れるか?
「昔のプログラムだからバカだったんでしょ?」
そう笑えるでしょうか。
私は、現代のAIやロボアドバイザーの方が、リスクは複雑化していると見ています。
警告①:2020年コロナショックの教訓
記憶に新しい2020年のコロナショック時、米国の大手ロボアドバイザー(BettermentやWealthfrontなど)で何が起きたか。
アクセス集中でサーバーがダウンしました。
皮肉なことに、ログインできなかったおかげで狼狽売りを防げた人もいましたが、「売りたい時に売れない」というシステムリスクは健在です。
警告②:Wealthfront「リスク・パリティ」の失敗
大手ロボアドバイザーWealthfrontが運用していた「リスク・パリティ・ファンド」。
「株式と債券は逆の動きをする」という前提で、レバレッジを掛けて安全に運用する高度なアルゴリズムでしたが、コロナショックで株と債券が同時に下がったことで大失敗し、2024年に閉鎖に追い込まれました。
高度な数理モデルも、想定外の「ブラックスワン」の前では無力なのです。
警告③:AIの「共振」
今後、生成AIがトレードを行うようになると、「AIハルシネーション(幻覚)」のリスクが出てきます。
AIがフェイクニュースを真実と誤認し、世界中のAIが一斉に反応して売りを浴びせる。
1987年の暴落スピードが「自転車」だとしたら、AI時代の暴落は「ジェット機」です。
人間の指では絶対に止められません。
総括:システムだけを信じるな
1987年のブラックマンデーで生き残ったのは誰か?
それは、コンピュータの画面を信じて呆然としていた人ではなく、「おかしい」と直感して電源を切り、自分の頭で判断した人間だけでした。
伝説の投資家ポール・チューダー・ジョーンズは、この暴落を予見し、システムに逆らって大儲けしました。
逆に、システムを過信したAetnaなどの保険会社は、巨額の損失を出して訴訟沙汰になりました。
【総務部からの提言】
- ロボアドは「平常時」のツールと心得よ。おまかせ投資は便利ですが、それは「海が凪いでいる時」の話です。嵐が来たら、彼らは舵を取るどころか、フリーズするか、勝手に船を沈める可能性があります。
- 「絶対」という言葉を監査せよ。「下落相場でも安心」「AIがリスク管理」……こういう言葉を聞いたら、1987年の「ポートフォリオ・インシュアランス」を思い出してください。金融の世界に「絶対」はありません。
- 最後は「現金」が最強の盾。システムが暴走した時、唯一価値が変わらないのはキャッシュです。フルインベストメント(全額投資)せず、必ず「生活防衛資金」という名の現金を確保しておくこと。


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