Last Updated on 2026年1月7日 by けん実おじさん
「奇跡」から「地獄」へ
総務のけん実おじさんです。
今回の監査対象は、1997年にアジア全域を焼け野原にした
「アジア通貨危機」
です。
当時、タイや韓国は「東アジアの奇跡」と呼ばれ、世界中から投資マネーが集まる優等生でした。
しかし、その繁栄は一夜にして崩壊しました。
通貨は大暴落し、企業は連鎖倒産し、国民は失業の嵐に投げ出されました。
なぜ、「優等生」は突然死したのか?
その原因を監査すると、現代の個人投資家が好む「新興国の高金利通貨(トルコリラやメキシコペソなど)」にも共通する、致命的なリスク構造が浮かび上がります。
「金利が高いからお得」 その考えがいかに危険か。
国家が破産するメカニズムを知れば、安易な投資がいかに「地雷」であるかが分かるはずです。
「見栄」で維持した固定相場
危機は、微笑みの国タイから始まりました。
当時のタイは、自国の通貨バーツを米ドルと連動させる「ドルペッグ制」を採用していました。
▼【監査ポイント】見せかけの安定
- ドルペッグの安心感: 「1ドル=25バーツ」で固定されていたため、海外投資家は為替リスクなしでタイに投資できた。
- 不動産バブル: 海外から低金利のドルを借りて、国内の高金利な不動産に投資するブームが起きた。
しかし、実態はボロボロでした。
輸出は伸び悩み、借金(外貨建て債務)だけが積み上がっていました。
これを見抜いたのが、ヘッジファンドのジョージ・ソロスです。
「タイの経済に、このバーツ高は不釣り合いだ」
通貨防衛戦の敗北
ソロスたちは猛烈な「バーツ売り」を仕掛けました。
タイ中央銀行は必死に買い支えましたが、実は金庫(外貨準備)の中身は「空っぽ」でした。
先物取引でドルを売り払っていたため、帳簿上はあるように見えても、使えるドルは残っていなかったのです。
1997年7月2日、タイ政府は白旗を上げました。
変動相場制へ移行した瞬間、バーツは大暴落。
ドル建ての借金を抱えていたタイ企業は、返済額が倍増し、次々と倒産しました。
飛び火した韓国:「財閥」という砂上の楼閣
タイの火事は、アジアの工業大国・韓国にも飛び火しました。
当時の韓国も、サムスンや現代といった「財閥」が経済を牽引する優等生でした。
▼【監査ポイント】自転車操業の巨人たち
しかし、財閥の中身を監査すると、驚くべき実態がありました。
- 借金まみれ: 財閥の負債比率は500%超(米国企業の3倍以上)。
- 短期資金への依存: 長期的な設備投資を、海外からの「短期借入金(1年以内の借金)」で回していた。
「期間のミスマッチ」と呼ばれる危険な状態です。
タイ危機で不安になった海外の銀行団が、「もう貸さない。金を返せ」と言い出した瞬間、韓国の資金繰りはショートしました。
国家の屈辱:IMF管理下へ
1997年11月、韓国の外貨準備は底をつきました。
「国家破産」です。
韓国政府はIMF(国際通貨基金)に救済を求めました。
その対価として突きつけられた条件(コンディショナリティ)は過酷でした。
- 金利を30%に上げろ(通貨防衛のため)
- 銀行を潰せ、社員を解雇せよ(構造改革のため)
韓国国民は、結婚指輪や金のネックレスを供出する「金集め運動」で国を救おうとしましたが、失業率は急増し、自殺者が相次ぎました。
韓国では今もこの時期を「IMF危機」と呼び、国恥として記憶しています。
投資家への教訓:高利回りの正体
この歴史から、私たち個人投資家が学ぶべきことは何でしょうか?
それは、「高金利通貨には、必ず『破綻リスク』という裏がある」ということです。
教訓①:カントリーリスクの「早期警戒シグナル」
タイや韓国が破綻する前、いくつかの危険信号が点灯していました。
これは、今のトルコやアルゼンチンにも当てはまる指標です。
- 外貨準備高が少ない: 「短期対外債務」より「外貨準備」が少なくなったら危険水域(ギドッティ・グリーンスパン・ルール)。
- 経常赤字が続いている: 国の稼ぎより支払いが多い状態。海外からの借金で食いつないでいる証拠。
- 政治介入: 中央銀行が独立しておらず、政治家が無理な利下げを強要している(現在のトルコなど)。
教訓②:円キャリートレードの恐怖
「日本で低金利の円を借りて、高金利の新興国通貨を買う」 これは儲かりますが、危機が起きると「往復ビンタ」を食らいます。
- 新興国通貨が暴落する(資産が減る)。
- リスク回避で「円高」になる(返済額が増える)。
ペレグリンという香港の投資銀行は、インドネシア通貨の暴落で一夜にして倒産しました。
プロでさえ死ぬのです。
個人がスワップポイント狙いで手を出すには、リスクが高すぎます。
総括:利回り10%の通貨を買う前に
新興国債券やFXで「年利10%!」といった広告を見たら、1997年のアジアを思い出してください。
その10%は、ご褒美ではありません。
「いつ紙くずになっても文句は言いません」というリスクへの対価(リスクプレミアム)なのです。
【総務部からの是正勧告】
- 新興国通貨は「分散」の一部に留めよ。 ポートフォリオの主役にしてはいけません。スパイス程度(数%)が限界です。
- 「見せかけの外貨準備」に騙されるな。 タイのように、帳簿上はあるように見えても、実態はスワップで空っぽかもしれません。
- 危機は「突然」来る。 昨日まで「奇跡」と絶賛されていた国が、翌朝にはIMFに泣きつく。それが新興国投資のリアルです。
「新興国の成長を取り込みたい」なら、通貨ではなく、全世界株式(オルカン)や米国株を通じて、その国でビジネスをしているグローバル企業に投資する方が、遥かに安全で合理的です。


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