Last Updated on 2026年1月7日 by けん実おじさん
カエルの置物が2兆円を動かした時代
総務のけん実おじさんです。
今回の監査対象は、日本経済史上、最も狂気に満ちた詐欺事件、
「尾上縫(おのうえぬい)事件」
です。
バブルの時代、大阪・ミナミの一介の料亭女将が、銀行から累計2兆7,000億円もの融資を引き出した。
その担保は? 彼女の投資判断の根拠は?
驚くべきことに、それは店に飾られた「ガマ(カエル)の置物」のお告げでした。
「そんな馬鹿な」と思うでしょう。
しかし、当時のエリート銀行マンたちは、そのカエルを信じ、彼女の前にひざまずき、湯水のように金を貸しました。
なぜ、日本中の銀行がこの老婆に狂わされたのか?
その異常な融資実態と、破滅的な借金投資の末路を、総務部の冷徹な視点で監査します。
異常な光景:銀行支店長が「下座」に座る夜
事件の舞台は、大阪の料亭「恵川」。
毎夜、ここには日本興業銀行(興銀)や住友銀行といった一流銀行の支店長たちが集まっていました。
通常、銀行員は「金を貸す側」として偉そうにしているものです。
しかし、ここでは序列が逆転していました。
上座に座るのは尾上縫。
エリート銀行員たちは下座に控え、彼女のご機嫌を伺い、時には店の掃除まで手伝っていました。
なぜか?
バブル期、銀行は「金余り」でした。
貸出先を探して血眼になっていた彼らにとって、数千億円規模で借金をしてくれる尾上縫は、まさに「神様」だったのです。
「興銀さんが貸しているなら安心だ」 この横並び意識が思考停止を生み、審査なき融資競争が加速していきました。
錬金術の正体:「架空預金証書」という禁じ手
彼女はどうやって資金を作っていたのか?
初期は「ワリコー(興銀の金融債)」を担保に借りていましたが、バブル崩壊で株価が下がると、ついに犯罪に手を染めます。
【監査手口】架空預金証書の偽造
- 地元の東洋信用金庫の支店長を抱き込む。
- 実際には預金していないのに、「3,420億円の預金がある」というニセの証書を発行させる。
- そのニセ証書を別の金融機関に担保として出し、現金を借りる。
3,400億円。
これは当時の東洋信金の全預金額を上回る数字です。
一支店長が独断で、信用金庫全体の資産以上の架空マネーを創造していたのです。
これはもはや「融資」ではなく、金融システムそのものを破壊する「テロ行為」でした。
破滅の時:東洋信金消滅と興銀の「抜け駆け」
1990年、バブルが弾けました。
株価暴落により、尾上の借金は雪だるま式に膨れ上がります。
金利支払いだけで莫大な額になり、ついに資金繰りがショートしました。
【監査結果】事件の結末
- 尾上縫逮捕: 詐欺と有印私文書偽造で逮捕。負債総額は4,300億円(個人として史上最高額)。
- 東洋信金の消滅: 架空証書の責任を負わされ、債務超過で破綻・解散。一人の女将のせいで、歴史ある金融機関が消滅しました。
- 興銀の抜け駆け: 実は興銀は、逮捕直前に「証書が偽造だ」と知らされていました。彼らは警察に通報する前に、自分たちの貸付だけこっそり回収して逃げ切りました。これが後に大問題となります。
監査総括:銀行の「笑顔」を信じるな
この事件から、私たちは何を学ぶべきでしょうか?
① 銀行は「あなた」ではなく「ノルマ」を見ている
銀行員が親切にしてくれるのは、あなたが好きだからではありません。
彼らにとって尾上縫は「最高のカモ」であり、利用価値がなくなれば即座に切り捨てられました。
「銀行が勧めるから安心」という考えは、バブル崩壊とともに捨ててください。
② レバレッジ(借金投資)の恐怖
尾上縫は、借金で株を買い、その株を担保にまた借金をしていました。
相場が上がっている時は天国ですが、下がった瞬間、地獄への特急列車になります。
「借金は、資産を増やすスピードも早めるが、破産するスピードはもっと早める」 この鉄則を忘れてはいけません。
③ 「神掛かり」に頼るな
カエルの置物にお祈りして投資をする。
笑い話のようですが、現代でも「AIが絶対に勝てると言った」「インフルエンサーが推奨した」と、思考停止で投資する人は後を絶ちません。
根拠のない熱狂の果てにあるのは、いつの時代も「破滅」だけです。
【総務部からの提言】
投資は、自分の頭で考え、自分の財布の範囲内で行うもの。
銀行員の笑顔や、怪しい「お告げ」に人生を預けてはいけません。
尾上縫が残した4,300億円の借金と、消滅した信用金庫の跡地は、その教訓を今に伝えています。


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