Last Updated on 2026年1月7日 by けん実おじさん
老後の資金が「溶けた」日
総務のけん実おじさんです。
今回の監査対象は、2012年に発覚し、日本中を震撼させた
「AIJ投資顧問事件」
です。
被害額は約2,000億円。
消えたのは、富裕層の余剰資金ではありません。
トラック運転手や建設作業員など、中小企業で働く人たちが汗水たらして積み立てた「企業年金(厚生年金基金)」でした。
なぜ、プロであるはずの年金基金の理事が、コロリと騙されたのか?
犯人が使った殺し文句は「絶対利回り」。
「相場が下がっても、ウチなら絶対に儲かりますよ」という甘い囁きでした。
この事件は過去の話ではありません。
最近摘発された「スカイプレミアム事件」など、手口は形を変えて繰り返されています。
今回は、年金を食い物にした稀代の詐欺事件を監査し、現代に潜む「うまい話」への免疫をつけます。
事件の背景:「運用難民」と「5.5%の呪い」
なぜ、怪しい投資顧問会社に大切なお金が集まったのか?
背景には、当時の日本経済の絶望的な状況がありました。
▼【監査ポイント】無理ゲーを強いられた年金基金
- 超低金利: 銀行に預けても利息はつかない。
- 予定利率5.5%: しかし、年金基金は「加入者に年5.5%で運用して増やす」と約束していた(バブル期の設定のまま)。
「リスクは取れない。でも5.5%稼がないといけない」
この無理難題に頭を抱える理事長たちの前に、救世主のように現れたのがAIJの浅川社長でした。
「私に任せれば、リスクなしで安定して稼げますよ」
騙しの手口:「絶対利回り」という虚構
AIJの手口は、金融工学と心理操作を巧みに組み合わせたものでした。
① オプション売りの「自転車操業」
彼らがやっていたのは「日経225オプションの売り」。
平時はチャリンチャリンと利益が入りますが、暴落が起きると損失が青天井になるという、超ハイリスクな博打です。
案の定、リーマンショックで破綻していましたが、彼らはそれを隠しました。
② 偽造された「右肩上がり」チャート
AIJが見せていた運用報告書のチャートは、定規で引いたように綺麗な右肩上がりでした。
実際は大赤字なのに、なぜバレなかったのか?
「タックスヘイブン(ケイマン諸島)」にブラックボックスを作り、そこで数字をいじっていたからです。
日本の監査の目が届かない海外ファンドを経由させる。
これがプロを欺く常套手段でした。
③ 天下りと接待の「信用ロンダリング」
さらに悪質なのが、「信用」の作り方です。
- 天下り: 旧社会保険庁のOBを顧問に迎え、「お墨付き」を演出。
- 過剰接待: 銀座や海外ゴルフで理事長たちを骨抜きにする。
「元役人が言うなら間違いない」「あんなに良くしてくれた人が嘘をつくはずがない」
日本的な「情と権威」が、理性を麻痺させたのです。
崩壊と被害:年金が減らされたお年寄りたち
2012年、証券取引等監視委員会(SESC)の強制調査で嘘がバレました。
2,000億円あったはずの資産は、ほとんど残っていませんでした。
【監査結果】被害の実態
- 被害基金: 建設業や運送業など、多くの中小企業系基金。
- 長野県建設業厚生年金基金: 約65億円が消失。理事長は「とにかく金を返してくれ」と絶叫しました。
結果、多くの年金基金が解散に追い込まれました。
一番の被害者は、何も知らずに年金を受け取っていたOBたちです。
「今月から年金が減額されます」
突然の通知に、老後の生活設計が崩壊した人が続出しました。
これが投資詐欺の残酷な結末です。
現代への警告:スカイプレミアムとの類似点
「AIJは昔の話」と笑ってはいけません。
2024年に摘発された「スカイプレミアム事件(被害額1,350億円)」を見てください。
▼【比較監査】歴史は繰り返す
| 比較項目 | AIJ投資顧問 (2012) | スカイプレミアム (2024) |
| ターゲット | 企業年金 | 個人投資家 |
| 謳い文句 | 「絶対利回り」 | 「月利20%」「確実な運用」 |
| 信用の源泉 | 天下り役人 | インフルエンサー・知人 |
| 隠蔽場所 | ケイマン諸島 | 海外口座・アプリ画面 |
ターゲットが企業から個人に変わっただけで、「海外に隠す」「権威(インフルエンサー)を使う」「ありえない利回りを約束する」という手口は全く同じです。
スマホ画面で数字が増えていても、それはAIJの偽造レポートと同じ「ただの電子データ」かもしれません。
総括:「うまい話」への免疫をつけろ
この事件から学ぶべき教訓はシンプルです。
- 「絶対」という言葉は詐欺の合図。投資の世界に「絶対」も「元本保証で高利回り」も存在しません。その言葉が出た瞬間に耳を塞いでください。
- 綺麗な「右肩上がり」を疑え。一度も下がらずに上がり続けるチャートは、バーナード・マドフ事件やAIJのように、数字を作っている可能性が高いです。
- 「誰が言ったか」より「仕組み」を見ろ。元官僚だろうが、有名インフルエンサーだろうが、彼らは中身を保証してくれません。
【総務部からの提言】
あなたの大切な退職金や老後資金。
それを守れるのは、金融庁でもインフルエンサーでもなく、「あなたの懐疑心」だけです。
「そんなうまい話があるわけない」
そう言える常識感覚こそが、最強のセキュリティソフトなのです。


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