Last Updated on 2026年1月7日 by けん実おじさん
資本の伝染病「FOMO」
総務のけん実おじさんです。
今回の監査対象は、現代の投資家を襲う最も恐ろしい病、
「FOMO(Fear Of Missing Out:取り残される恐怖)」
です。
今や、スマホ一つあれば、トイレの中でも世界中の株が買える時代になりました。
手数料は無料、情報はリアルタイム。
素晴らしい環境です。
しかし、この「便利さ」と「情報の洪水」が、多くの投資家をパニックに陥れています。
X(旧Twitter)を開けば、「〇〇株がストップ高!」「青天井モード突入!」「まだ持ってないの?」という煽り文句が踊っています。
それを見たあなたの心拍数は上がり、指が震え、気づけばこう思っていませんか?
「今買わないと、一生のチャンスを逃すかもしれない!」
そして、チャートの頂点で「買いボタン」を押し、その直後の暴落で資産を溶かす。
いわゆる「イナゴ(急騰株に飛びつく人々)」の悲劇です。
断言します。
あなたがやっているのは資産形成ではありません。
「脳内麻薬(ドーパミン)の無駄遣い」です。
本報告書では、なぜ知的な大人が、SNSの煽り文句一つで理性を失うのか、その脳科学的メカニズムを徹底監査します。
結論から言えば、流行りの株に飛びつく暇があるなら、今すぐSNSを閉じて、地味で退屈な「iDeCo(確定拠出年金)」の設定を見直しなさい。
それが唯一の特効薬です。
心理メカニズム監査:脳がバグる理由
「自分は冷静だ」「あんな煽りには乗らない」 そう思っている人ほど危ないのが、この病の厄介なところです。
なぜなら、FOMOはあなたの意志力の問題ではなく、脳の回路(本能)をハッキングしてくる攻撃だからです。
① プロスペクト理論の逆転:機会損失への異常な恐怖
行動経済学には「プロスペクト理論」という有名な法則があります。
「人間は、1万円儲かる喜びよりも、1万円損する痛みを2倍強く感じる」というものです。
通常、この本能は「損をしたくない」という保守的な行動(リスク回避)に向かいます。
しかし、SNS時代において、この「損失」の定義が書き換えられてしまいました。
タイムラインで他人の「爆益報告」を見せつけられた脳は、こう誤認します。
「株価が下がって損をすること」よりも、「あいつらが儲けている祭りに参加できず、自分だけが置いていかれること(機会損失)」の方が、より深刻で耐え難い「損失」である。
この瞬間、脳のリミッターが外れます。
「損をしたくない」という本能が、逆回転して「リスクを無視してでも、祭りに参加しなければならない(リスク愛好)」という命令に変わるのです。
これが、「高値掴み」の正体です。
② ドーパミンの罠:投資ではなく「鎮痛行為」
急騰しているチャートや、「億りました!」という画像を見たとき、あなたの脳内では「ドーパミン(快楽物質)」が大量に放出されています。
脳は「大きな報酬」を予感し、興奮状態になります。
しかし、まだ株を持っていないあなたは、同時に強烈な「不快感(ストレス)」を感じます。
「このまま上がってしまったらどうしよう」という焦燥感です。
脳は、この不快なストレス(予測誤差)を一刻も早く解消しようとします。
どうすれば解消できるか?
一番手っ取り早い方法は、「今すぐ注文ボタンを押すこと」です。
買った瞬間、「ふぅ、これで乗り遅れずに済んだ」という安堵感(鎮痛効果)が得られますよね?
つまり、あなたがイナゴタワーの頂上で株を買うあの行為は、経済的な合理的判断で行われたものではありません。
脳内の不快なストレスを消すための、単なる「鎮痛行為」として行われているのです。
痛み止めのために全財産を賭ける。これほど危険なギャンブルはありません。
SNSとアルゴリズムの罪:増幅装置
前回の報告で、脳がドーパミンによってバグる仕組みを監査しました。
しかし、このバグを意図的に利用し、あなたを養分にしようとするシステムが存在します。
それが「SNSアルゴリズム」と「フィンフルエンサー(金融インフルエンサー)」です。
① イナゴタワーの構造:あなたは「出口」に使われている
SNSで「〇〇株、初動です!」「青天井モード!」という書き込みを見たとき、あなたは「親切な情報だ」と思いますか?
とんでもない。
それは「撒き餌」です。
相場の世界には「流動性の罠」という言葉があります。
賢い投資家(スマートマネー)や仕手筋は、安値で大量に仕込んだ株を、高値で売り抜けるために「買い手」を探しています。
そこでSNSを使います。
煽って、イナゴ(素人投資家)を大量に呼び寄せ、株価を急騰させます。
そして、熱狂が最高潮に達した時、彼らはこっそりと売り抜けます。
つまり、あなたが「乗り遅れるな!」と飛びついたその場所は、彼らが利益確定するための「出口(Exit Liquidity)」なのです。
梯子を外された後、暴落した株(ゴミ)を抱えて呆然とするのは、常に最後にやってきたイナゴだけです。
② フィンフルエンサーの利益相反
YouTubeやXで活動する「金融インフルエンサー」たちにも注意が必要です。
彼らの多くは善人かもしれませんが、構造的な「利益相反」を抱えています。
- あなたの目的: 資産を増やすこと。
- 彼らの目的: 再生数(インプレッション)を稼ぐこと。
「S&P500を買って、あとは寝ておきましょう」 これは真理ですが、動画にしても退屈で誰も見ません。
だから彼らは、「次の10倍株!」「今すぐ売れ! 大暴落が来る!」と過激なサムネイルで感情を揺さぶります。
彼らのアドバイスに従ってあなたが損をしても、彼らの広告収入は減りません。
エンタメとして見るのは勝手ですが、財布の紐まで預けてはいけません。
失敗事例監査:歴史は繰り返す
FOMOが生んだ悲劇的な失敗事例を監査します。
人間は歴史から学ばない生き物ですが、せめてこれを見てブレーキをかけてください。
① ゲームストップ事件の真実
2021年、アメリカでSNS(Reddit)に集まった個人投資家が、ヘッジファンドを倒した「ゲームストップ株騒動」。
まるで革命のように語られましたが、結末はどうだったか?
初期に参入した一部の人間は大儲けしましたが、ニュースを見て後から飛び乗った多くの素人は、暴落に巻き込まれ、貯金を吹き飛ばしました。
「革命に参加したい」「祭りに加わりたい」 そんな感情(FOMO)で動いた人間が、最後にババを引く。
これはいつの時代も変わりません。
② NISA成長投資枠の誤用
日本でも2024年の新NISA開始直後、悲劇が起きました。
SNSで話題になった「高配当株」や「急騰株」を、成長投資枠(年間240万円)で一括購入した人たちです。
「非課税枠を使い切らないともったいない!」という焦り(FOMO)で高値掴みし、その直後の下落で含み損生活に突入。
NISAの最大のデメリットは「損益通算ができないこと」です。
損失が出ても税金が安くなるわけでもなく、ただ非課税枠をドブに捨てただけ。
「流行りもの」と「長期投資の器(NISA)」ほど、相性の悪い組み合わせはありません。
対策と提言:退屈こそ最強
では、どうすればこの強力な本能(FOMO)に打ち勝てるのか?
意志の力では無理です。
総務部からの提言は、「強制力のある拘束衣」を着ることです。
① iDeCo(イデコ):最強の拘束衣
iDeCo(個人型確定拠出年金)には、多くの人がデメリットだと感じる特徴があります。
「60歳になるまで、原則引き出せない」ことです。
しかし、行動経済学の視点では、これこそが「最強のメリット」です。
市場が暴落してパニックになっても、隣の芝生が青く見えても、iDeCoの中にある資産は絶対に動かせません。
この物理的な「不自由」が、あなたの狼狽売りや、余計な回転売買を強制的に防いでくれます。
未来の自分を守るために、今の自分を縛る。これほど確実な防衛策はありません。
② つみたてNISA:忘却の自動化
もう一つは、つみたて投資枠を使った「全自動積立」です。
給料が入ったら、自動的に引き落とされ、全世界株などのインデックスファンドが買われる設定にします。
そして、「パスワードを忘れる勢いで放置」してください。
SNSを見る必要も、株価をチェックする必要もありません。
「忘れている」状態こそが、FOMOを無効化する最強の精神状態です。
実際、最も運用成績が良い投資家は「亡くなっている人」か「口座があるのを忘れていた人」だという笑えないデータもあります。
監査総括:投資はエンタメではない
SNSを開けば、毎日がお祭り騒ぎです。
それに参加しないことは、退屈で、孤独に感じるかもしれません。
しかし、あえて言います。
「投資とは、本来、退屈なものであるべきだ」
もし、あなたが投資をしていて、ドキドキしたり、興奮したり、冷や汗をかいたりしているなら、それは投資ではありません。
ギャンブルです。
「ペンキが乾くのを眺めるように」「芝生が伸びるのを待つように」 ただ淡々と、退屈に、時間を味方につける。
その退屈の先にしか、本当の経済的自由(FIRE)はありません。
今すぐスマホを置き、SNSを閉じ、家族と食事でも楽しんでください。
それが、FOMOに対する唯一にして完全なる勝利です。


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