Last Updated on 2026年1月7日 by けん実おじさん
はじめに:仲良し家族の裏にある「実利」の話
日本に数多ある中小企業において、家族が一人も従業員や役員にいない会社というのは、実のところかなりの少数派でしょう。
私がこれまで異業種交流会や会計事務所を通じて拝見してきた多くの会社でも、ほぼ例外なく親族……特に同じ家に住む血縁者が、役員や従業員に名を連ねていました。
学生時代に商売に触れてこなかった私のような人間は、就職したての頃こそ「仲が良いんだな」というのんきな感想しか持っていませんでした。
しかし、15年も現場にいると、その景色は全く違って見えます。
もちろん「仲が良い」ことも大切ですが、そこには「税金面で確実に得をする」という極めて合理的なからくりが存在しているのです。
累進課税の壁を突破する「所得分散」の魔法
家族に報酬を払う最大の理由は、日本の「累進課税制度」にあります。
日本では所得が高ければ高いほど税率が上がり、ある一定を超えると稼ぎの半分近くを税金で持っていかれてしまいます。
これは外で必死に働く社長にとって、非常に厳しい現実です。
そこで活用されるのが、所得を分ける「所得分散」という発想です。
◆ 1人で2,000万円もらう vs 2人で1,000万円ずつ分ける 世帯全体で2,000万円の収入を得る場合、手元に残るお金(可処分所得)が多いのは圧倒的に「2人で分ける方」です。
1人で2,000万円を受け取ると高い税率が適用されますが、分散すればそれぞれの税率を低く抑えられます。
さらに、給与所得控除などの「控除枠」も人数分使えるようになります。
世帯収入は同じでも、納める税金を最小限にし、家族の手元に残るお金を最大化できる。
これが家族を名義に入れる最大のメリットです。
奥さんが家を守ることが、立派な「実務」になる
中小企業では「旦那さんは外で働き、奥さんは家を守る」というスタイルが今も多く見られます。
自宅が事務所の会社はもちろん、別に従事務所があっても、奥さんは家庭を切り盛りしながら会社を支えています。
◆ お金を渡すプロセスの効率化
社長が一人で給料をもらい、そこから奥さんに「生活費」として渡すのは、税金面では「高い税金を引かれた後の残りカス」を渡しているのと同じです。
それよりも、最初から奥さんを従業員や役員にして会社から直接給料を支払う方が、はるかに効率的です。
奥さんの分の「給与所得控除」をフル活用し、所得税・住民税を最小限に抑えた状態で家計にお金を流し込む。
この役割分担に給与という形を与えることが、お互いに最もメリットがある形として選ばれています。
親族の名義をフル活用する「潤いのシステム」
この仕組みは奥さんだけに留まりません。
息子や娘、あるいは他の会社で働いていない妹さんなどの親族の名前を入れているケースもよく見かけます。
もちろん実態のない「名義貸し」は問題ですが、実際に出社して業務を手伝ったり、一定の役割を持たせてお給料を支払うことで、家族全体が潤う仕組みを作っています。
サラリーマンから見れば「働いていないのにずるい」と感じるかもしれませんが、オーナー企業にとっては、「身内に資産を分散し、家族全体を潤わせる」ためのルールに基づいた立派な戦略なのです。
相続を見据えた「事前の資産移転」という視点
もう一つ重要なのが、「相続対策」としての側面です。
人が亡くなった際に多額の資産を一度に渡そうとすると高い相続税がかかりますが、これには非課税枠があります。
- 社長の報酬をあえて抑える
- 将来の相続人(子など)の報酬を多めに設定する
こうすることで、死後にドカンと財産を移すのではなく、生きているうちに「給与」という形で、低い税率でコツコツと資産を子供たちの名前に移しておくことができます。
この積み重ねが、数十年後には数千万円単位の節税効果を生むことになるのです。
税理士は「実入り最大化」のアドバイザー
税制は非常に複雑で、毎年のように変わっていきます。
だからこそ、中小企業にはプロである税理士がついています。
「今、一番得になる分配はいくらか」「将来を見据えてどう動くべきか」という細かいアドバイスを受け、オーナーは名義をうまく使い分けています。
若い頃の私が「仲良し夫婦」だと思っていた景色は、実は「法人の名義と個人の名義をパズルのように組み合わせ、実入りを最大化する」極めて合理的な経営判断だったのです。
ルールの範囲内で賢く生きる
サラリーマンの方からすれば不公平に見える部分もあるでしょう。
しかし、これは決められたルール(税法)の中での話です。
中小企業オーナーは自らリスクを取って商売をしています。
その特権として、法人・個人・家族の名義をフル活用し、手元に残るお金を最大化する手段を持っています。
もしあなたがこれから副業や起業を考えているなら、この「家族の名義を使う」という視点は、必ず持っておくべき武器になるはずです。

コメント